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『面白くないこと』の先にあるもの

by 阿月まり

「俺が潜航調査を実況したいのは、君が二言目には『くだらない』『面白くない』と言うからだよ」
「どういうこと?」
君は海のことをよく知ろうともせず、『面白くない』と切って捨てる。『面白くないこと』の先は見ようとしない
「それを私に知らしめるために、わざわざ実況を企画するわけ? 関係者にけんもほろろに断られても?」
「そうだよ」
「冗談でしょう」
「本気だよ」
「どうしてなの?」
「君は前に言ってたな。どんなに一所懸命に生きても、自分は決して日の当たる場所で栄光に浴することはない。幸せではない人間にとって、生命がどうだの、生きる価値がどうだの、そんなことはどうでもいい、と。でも、価値観も揺るがすようなものを目にしたら、多少は見方が変わらないか」
「それと深海調査にどんな関係が?」
深海の生き物を見れば分かる。意味が無くても、名無しでも、その存在に未だ気付かれなくても、みんな生きてる
「それはステラマリスの話でしょう。ウェストフィリアの海に潜っても、何も無いと思うわよ」
何も無いことはない。ウェストフィリアの海だって生きてる。生きているから、ここには地熱があり、雨が降り、深海にも様々な鉱物が生成される
「それで私の価値観が変わると本気で思ってるの?」
「一度は見せてやりたい。君にも幸せになって欲しいから」
「……どうして?」
「君に多少なりと愛情を持ってるからだよ。affection ってやつさ」

海洋小説『曙光』MORGENROOD(下巻)


阿月まり
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